September 12, 2013 22:57

「王たちの行進」 落合信彦

ootachi


数日かけて読みました。
面白かった。
1998年6月20日初版発行。

*****

この本が出たとき、
この本を買ったとき(正確には買ってもらったとき)
の記憶ははっきり覚えています。

当時俺は中学3年生で、
水泳のSコーチに憧れている日々だった。
彼は既にコーチ業を引退して、自分の店を出す準備段階に入っていたが、
当時、よく、俺と姉の二人を誘って、
食事に連れて行ってくれたり、
映画に連れて行ってくれたりした。

この日は、平日の何でもない日だったけど、
午後の2時頃、当時の担任に呼ばれ、
「何だか、お母さんから職員室に緊急で電話が入ったよ。早く帰ってきなさいって」
と言うことで、
その時母親と電話で話したのか、
または、そのまま急いで帰ったのかは忘れたけれど、
とにかく、帰りの会か何かをスキップして、少しだけ早退して帰ったのを覚えている。

すると、結局は、
白井コーチがうちに電話をくれたということで、
今日は仕事の都合がうまく行ったので、俺と姉ちゃんを映画に連れて行ってくれる、
ということだった。

俺は嬉しくて、すごく興奮していたのを覚えている。

実際にコーチが迎えにきて、
自分が早退してきた事を伝えると、
「え?そこまでしなくてもよかったのに!」と驚かれたのを覚えている。

そして、高速道路に乗って、コーチのエクスプローラーで連れて行ってもらったのは、
ららぽーとだった。
そこで、『ジャッカル』を見て、
その後、喫茶店に入って、お茶を飲んだのを覚えている。

そのときは、俺が高校受験の前で、
お姉ちゃんが大学受験の前で、
当時俺が何となく狙っていた姉の通っている高校に通う事を、
コーチにほのめかされていた俺は、
もしもその高校に受かったら、時計を買ってやる、
と言われたのを覚えている。

もちろん、当時は時計なんて欲しく無かったし、
恐らく、コーチがくれようとしていた時計は、
きっと、高級なものだったと思うけれど。

*****

そのとき、ららぽーとに入ると、
コーチは、本当は視力が悪くて、遠くが見えないのに、
メガネをかけるとカッコ悪いからと言って、
運転中しか、決してメガネをかけない人だった。

そして、映画を観る時のために、
そのメガネを、お姉ちゃんに渡して、
バッグに入れてもらっていたのを覚えている。


車を停めた駐車場から、どこの入り口から入って映画館まで行ったか、
帰りの道のりを、コーチは覚えていて、ずんずんと進んで行くのを見て、
「よく覚えていますね」と言ったら、
「こういうのは、匂いで覚える」と言っていたのを覚えている。
そのときのコーチが前を歩いているときのこととか、
その時の情景、
もちろん、細部まではハッキリ覚えていないが、
雰囲気とか、色を、
よく覚えている。


*****


そして、この本は、
そのららぽーとの本屋に寄って、
俺がちょうどその頃から1年前に、落合信彦の「男たちの伝説」を夏祭りの夜に買ってもらった頃から、
俺は落合にはまっていて、
本屋でこれが出ているのを見て、
コーチに「落合の新作ですね」と言ったら、
そのままコーチはレジに持って行き、
その本を買った後、
俺にそのままプレゼントしてくれた。

この本は定価1700円くらいするはずだから、
当時の俺の一ヶ月分の小遣いよりも高かったので、
こういう本はなかなか買えなかったので、
ますます嬉しかった。

*****

そして、この本を読み終わった後、
コーチが「貸してな」と言って、
俺の部屋から持って行ったのを覚えている。

返す時は、
「やっぱり落合の作品は面白いな」
と言いながら。

*****

そんな、コーチに買ってもらって、
コーチとの思い出がつまっている本。

肝心の話の内容は、
今回読み返すまで、驚く程に、まったく覚えていなかった。

オペレーション・スバボーダ、の名前は覚えていたが、
それ以外、ほぼ記憶は皆無に等しかった。

きっと、当時の俺には、
ドイツのベルリンの壁崩壊に関わる歴史の話は、
難しすぎたのかもしれないし、
リアリティが湧かなかったのかもしれないし、

または、当時はやはり、悩む日が多かったから、
純粋に、覚えていなかったのかもしれない。

多分きっと、
当時読んだ他の作品も、余り覚えていない事から、
落合の小説の世界は、
どうしても中学生の俺には、イメージがしにくく、
リアリティを持って読めなかったのだろう。

(だからこそ、彼の自己啓発本『命の使い方』なんかは、
当時同じ時期に読んでいたが、
その内容は、今でもハッキリ覚えている。
まあ、この本は、何回も読み返した、というのもあると思うけれど。)

*****

結局、本の内容というよりも、
俺個人の思いでの話になったが、
結局、この本というのは、
そのときの思い出が、強く結びついていて、
そういう意味で、本の内容どうこうよりも、
その存在自体が、
俺にとって、特別である、ということ。


*****

コーチの運転する外車の後ろの席に座って、
コーチの助手席には、お姉ちゃんが座って、
俺は必死に、コーチの話を興味津々で聞いて、
コーチに、「(自分の店のために)ホームページを開いたらどうですか?」なんて
言った事を覚えている。

当時は、まだインターネットも全く普及しておらず、
(だって、俺が高校3年の終わりくらいで、
やっと、少数の家がパソコンを持ち始めたくらいだから)
でも、ホームページという存在は、知っていた当時。



車の中で、
高速道路を走りながら、
まだ明るい、初夏の日差しが、
車に差し込んで来る、あの光の感じ。


あの感じを、よく、覚えている。


俺が、14歳の頃。



2013/9/12 22:54










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