August 30, 2013 08:54

「ただ栄光のためでなく」落合信彦

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読み終わりました。
1988/5/20初版発行。
先週の半ばに読み出して、昨日読み終わりました。
本当に面白かった。
あっという間に読んでしまった。

*****

先日レビューを書いた「男たちの伝説」の前作に当たるものです。
俺は今までこの小説の存在を知らなかったんだけど、
Amazonのレビューを読んでいて、
この小説が第一作、「男たちの〜」が二作目、
そして「狼たちの世界」が三作目、ということを初めて知りました。
(なので、早速「狼たちの〜」も手に入れたので、これから読み出します。)


「男たちの伝説」に出て来る仁科にNYのレストランで会い、
ビジネスチャンスを与えるのが佐伯剛という男です。
その佐伯という人物を主人公として描かれた本。
落合の作品やエッセイを沢山読んだ人間なら気づくと思いますが、
佐伯の辿る道筋や、この小説内に出て来るストーリーは、
殆ど落合自身が経験したものである事が容易に想像できます。

*****

「男たちの伝説」よりは、より深く細かい洞察がビジネスに関して描かれています。
そして、もっとストーリーにテンポがある気がする。
「男たちの伝説」の方が、より若者向け、という感じがします。

29歳である今の自分が読むと、
「ただ栄光のためでなく」の方が、よりビジネスの描写に特化しているので
面白く感じますが、
多分、13歳前後でこの本を読んでも、面白さは分からなかったんじゃないかなと思います。

*****

なぜ落合信彦がオイルビジネスにハマったのか。
その理由が、良く分かる本です。
おすすめ。

2013/8/30 8:53am


*****

追記:ちなみに、自分はやっぱり落合の作品を中学時代から読み始めたのもあり、
彼の影響を、中学2年〜高校3年まで、
計5年以上、フルに、全く彼の事を疑う事無く読んで来たため、
彼の信条やスタンスが、どこか自分の中に入り込んでしまったわけですが、
彼の作品をけなしたり、批判的に見る人がいる事を知ったのは、
大学に入ってからでした。

実際、彼の作品を批判してみる人の声も聴くことで、
やっと自分の中でもバランスがとれる様になったわけですが、
実に自分の妻も、彼のことを皮肉的に見る人の一人です。

要するに、落合の作品というのは、
完全なハードボイルドの世界で、
かっこ付けて生きることが、当たり前、
弱みを見せる描写などはなく、
むしろ、男に弱みというものは存在しないかのように描かれるわけですが、
(それは、登場する女性人物にとっても一緒。みんな芯が通って強い)
それを言うと、逆に妻から見ると、
そうやって肩肘はってかっこつけている、そのことが可愛いと思えてしまうそうです。


俺が近年ハマって読んで来ている村上春樹の作品と比べると、
全く真逆の世界であるような気がします。

いかに、村上春樹は、
一人の人間の心の繊細なところの内部までを、
より厳密に描いていくか、なのですが、

落合の場合には、
そもそもその「心の繊細な心情」自体が存在しないかのようにすっ飛ばされて描かれており、
フォーカスはあくまで、登場人物たちがどのような行動をとって、
その結果歴史になにが起きたか、
それを、第三者的な視点で描かれているのです。
(しかしながら、各登場人物の視点からいつも話は描かれており、
そして、彼らの価値観的なものが述べられているが、
それは全て、落合の価値観をそのまま描写しているようなので、
まるで、全ての登場人物が同じ性格を持っているのではないかと思える節がある。)



そんなわけで、全く違う、対照的な、
村上春樹と落合信彦。

村上さんの本は、何年経っても、
世界中で愛されて読まれていますが、
落合の本は、今では本屋で見つけることも難しくなってきました。
(現に、この「ただ栄光の〜」を見つけるために、
書店を5個くらい回ったのに、
どこにも絶対に置いていなかった。
むしろ、10年前は、文庫本コーナーに行くと、
落合の作品はある程度は必ず並べてあったのに、
今では、落合信彦自体のコーナーが
全く見られなくなってしまった。

何とも、ショックであった。)


*****

しかし、世界が落合を忘れようと、
やはり俺は彼の血が自分の中に流れていると感じているので、
彼を応援し続けます。
たまにツッコミを入れながら。


9:06am










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